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第21回あいうえお色日記

「なまりいろ」

日の当たらない海は鉛のようだった。

重たく、厳しく、堂々としている。

暗い色でも表面はなめらかなのが印象的だった。

わたしは、海士の夏の海を知らない。

光り輝く、にぎやかなあかるい海を、知らない。

CASで働く片桐さんが言うには、夏の海はよく澄んでいて、

そのまま飲みたくなってしまうほどなのだそうだ。

(片桐さんは新鮮なイカを並べながら、かじりたいとよく言っていた。どうも美しく感じる感覚と、飲み食いする感覚が連動する方らしい)

夏もそうだけれど、冬も春も見てみたい。

雪も、桜も、きっとすてきだ。想像して憧れた。

でも、わたしは、海士の紅葉を知っている。

11月でもまだ緑か、と思っていたら、

みるみるうちに朝晩の冷え込みが厳しくなり、山が豊かに色付いた。

その変化の中を、わたしは過ごした。

少しずつ厳そかな表情になっていく海の変化も、しっかりと見た。

移ろうものを、しっかりと見つめたいと思う。

島にいても東京にいても、家族といても恋人といても、働いていても遊んでいても。

変わるって、戻れない気がしてすこし寂しいけれど、

そこを見つめないと出会えない景色が確実にある。

鉛色の海を見つめたからこそ、

エメラルドの海に憧れられる。

わたしはいま、そのまま飲みたくなるような海に思いを馳せ、

ツリーがきらめく街の景色を、電車の窓から見つめている。